遺言書は、被相続人の意思を実現し、相続トラブルを未然に防ぐための重要な手段です。
しかし、「どこまで効力があるのか」「無効になるケースは何か」「どのように作成すればよいのか」など、制度の理解が不十分なままでは、せっかくの遺言が無効になるリスクもあります。
本記事では、遺言書が効力を持つための要件や遺言で指定できる内容を解説します。
目次
遺言書の効力とは、被相続人の死亡後に、その意思どおりに財産の分配や処分を実現させる法的な力を指します。
民法で定められた方式に従って作成された遺言書は、原則として法定相続よりも優先され、相続人はその内容に従う必要があります。
関連サイト法務省「遺言書の様式等についての注意事項」
遺言書の効力は、被相続人が死亡した時点で発生します。生前には効力はなく、あくまで死亡を条件として法的効果が生じる点が特徴です。
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。
引用元:民法 第九百八十五条(e-Gov法令検索)
また、効力の存続期間に明確な期限はなく、相続手続きが完了するまで効力が継続します。
遺言書には、自筆証書遺言や公正証書遺言など複数の形式がありますが、いずれも法的要件を満たしていれば効力に差はありません。
ただし、自筆証書遺言は形式不備による無効リスクや検認手続きが必要となる点に注意が必要です。
一方、公正証書遺言は公証人が関与するため、形式面での安全性が高く、実務上はより確実に効力を発揮しやすいといえます。
遺言書が法的に有効な効力を持つためには、民法で定められた厳格な要件を満たす必要があります。
形式面の不備や作成時の状況によっては、遺言の内容自体が明確であっても無効と判断されることがあるため注意しましょう。
関連サイト法務省・法務局「自筆証書遺言と公正証書遺言の違い」
自筆証書遺言は、遺言者が自ら作成する最も簡便な方式ですが、その分、要件が厳格に定められています。
具体的には、遺言全文・日付・氏名をすべて自書し、押印する必要があります。なお、民法改正案(2026年4月閣議決定)では押印要件が廃止される方向で検討されており、今後変更される可能性があります。
民法第968条第1項は,自筆証書遺言をする場合には,遺言者が,遺言書の全文,日付及び氏名を自書(自ら書くことをいいます。)して,これに印を押さなければならないものと定めています。今回の改正によって新設される同条第2項によって,自筆証書によって遺言をする場合でも,例外的に,自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録(以下「財産目録」といいます。)を添付するときは,その目録については自書しなくてもよいことになります。
引用元:自筆証書遺言に関するルールが変わります。(法務省)
パソコンや代筆による作成は原則として認められず、自筆で作成しないと無効になるのでご注意ください。
なお、財産目録については一定の条件のもとでパソコン作成も認められていますが、その場合でも各ページへの署名押印が求められます。また、作成後は家庭裁判所での検認手続きが必要となる点にも留意が必要です。
公正証書遺言は、公証人が関与して作成されるため、形式面の不備が生じにくい点が特徴です。遺言者が公証人に対して遺言内容を口述し、それを公証人が文書化します。
その際、証人2名以上の立会いが必要であり、遺言者・証人・公証人がそれぞれ署名押印することで成立します。
公正証書遺言は、遺言者本人が、公証人と証人2名の前で、遺言の内容を口頭で告げ、公証人が、それが遺言者の真意であることを確認した上、これを文章にまとめたものを、遺言者および証人2名に読み聞かせ、または閲覧させて、内容に間違いがないことを確認してもらって、遺言公正証書として作成します。なお、民法では、「証人二人以上」と定められていますが、公証実務では、証人が3名以上になることはなく、証人2名で公正証書遺言が作成されます。
引用元:2 遺言(日本公証人連合会)
作成された遺言書は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクが低く、検認手続きも不要です。
遺言書の効力を判断するうえで、遺言者に意思能力があったかどうかは極めて重要です。
遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
引用元:民法 第九百六十三条(e-Gov法令検索)
意思能力とは、自らの行為の結果を理解し判断できる能力を指し、認知症などにより判断能力が低下している場合には、遺言が無効とされる可能性があります。
特に、高齢者が作成した遺言書については、後日相続人同士で争いとなるケースも少なくありません。
遺言書では、被相続人の最終意思として、財産の分配方法や身分関係に関する事項など、法律で認められた範囲の内容を指定することができます。
ここでは、実務上よく活用される代表的な指定内容とその効力の範囲について解説します。
なお、配偶者・子・直系尊属など一定の相続人には、法律で最低限の相続割合(遺留分)が保障されています。遺留分を侵害する内容の遺言を作成した場合、該当の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があるため注意が必要です。
遺留分とは,一定の相続人(遺留分権利者)について,被相続人(亡くなった方)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで,被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。被相続人が財産を遺留分権利者以外に贈与又は遺贈し,遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合,遺留分権利者は,贈与又は遺贈を受けた者に対し,遺留分を侵害されたとして,その侵害額に相当する金銭の支払を請求することできます。これを遺留分侵害額の請求といいます。
引用元:遺留分侵害額の請求調停(裁判所)
遺言書では、誰にどの財産をどのように分配するかを具体的に指定することが可能です。
例えば、「自宅不動産は長男に、預貯金は配偶者に」といった形で個別に指定することで、遺産分割協議を経ることなく相続手続きを進められます。
また、「全財産を均等に分ける」といった包括的な指定も可能です。
遺言者は、法定相続分とは異なる割合で相続分を指定できます。例えば、特定の相続人に多くの財産を承継させたい場合、その旨を明確に記載することで効力を持ちます。
また、相続分の割合の決定を第三者に委ねる「相続分の指定委託」(民法902条)も認められています。
ただし、委託できる相手は相続人以外の第三者に限られ、受託者が拒否した場合は法定相続分が適用されます。実務上の利用例は少なく、活用の際は専門家への相談をお勧めします。
遺言書では、相続人以外の第三者や法人に対して財産を渡す「遺贈」を行うことも可能です。例えば、内縁の配偶者やお世話になった知人、あるいは公益法人への寄付などがこれに該当します。
遺贈には、特定の財産を渡す特定遺贈と、財産の全部または一部の割合を渡す包括遺贈があります。
遺言書では、一定の要件のもとで相続人の廃除を求めることができます。これは、被相続人に対する重大な虐待や侮辱などがあった場合に、その相続人の相続権を失わせる制度です。
また、婚姻関係にない子を認知することも可能であり、これにより法的な親子関係が成立します。
遺言書では、遺言内容を実現するための「遺言執行者」を指定できます。
遺言執行者は、預貯金の解約や不動産の名義変更など、相続手続きを具体的に進める権限を有し、その行為は相続人に対して直接効力を持ちます。
適切な人物を指定しておけば、相続人同士の手続きの負担を軽減し、円滑な遺産承継が可能となります。
遺言書は相続トラブルを防ぐ有効な手段ですが、作成方法や運用を誤ると、かえって紛争の原因となることもあります。
ここでは、遺言書作成時に押さえておくべき主な注意点を解説します。
現行制度では、遺言書は紙媒体での作成が原則とされており、完全なデジタル形式の遺言書は認められていません。
ただし、社会のデジタル化の進展に伴い、電子的な遺言制度の導入に向けた制度整備が急速に進められています。
公正証書遺言については、2025年10月よりウェブ会議を利用したリモートでの作成や、電子署名による申請など、作成手続きのデジタル化がすでに始まっています。
それ以外にも、パソコンやスマートフォンで作成・保管できる新たな遺言制度「保管証書遺言」の民法改正案が2026年4月に閣議決定されました。今後の国会審議を経て施行される見込みですが、施行時期はまだ確定しておらず、2028年前後になるとも言われています。
関連サイト法務省「自筆証書遺言に関するルールが変わります」
いずれにせよ、遺言制度は大きな転換期を迎えており、今後の動向に注目が必要です。
自筆証書遺言は、作成後に家庭裁判所での検認手続きが必要となります。
検認とは、遺言書の内容や状態を確認し、偽造・改ざんを防止するための手続きであり、これを経なければ原則として相続手続きを進めることができません。
「検認」とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして,遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。なお,公正証書による遺言のほか,法務局において保管されている自筆証書遺言※に関して交付される「遺言書情報証明書」は,検認の必要はありません。
引用元:遺言書の検認(裁判所)
なお、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した場合には検認が不要となります。
遺言書は「単独行為」であり、複数人が共同で一つの遺言書を作成することは認められていません。例えば、夫婦が連名で一通の遺言書を作成した場合、その遺言は無効とされます。
最後に、遺言書の効力についてよくある質問を回答と共に紹介していきます。
遺言書そのものに法律上の有効期限はありません。一度有効に作成された遺言書は、遺言者が死亡するまで効力は発生せず、死亡時点で初めて効力が生じます。
その後も期限によって無効になることはなく、原則として内容は有効に存続します。
ただし、遺言者が新たに遺言書を作成した場合や、内容が抵触する場合には、後の遺言が優先されるため、実質的に前の遺言が効力を失うことがあります。
遺言書は方式によって作成方法が異なります。
自筆証書遺言の場合、原則として全文を自書する必要があり、パソコンで作成した本文は無効となります。
ただし、財産目録については例外的にパソコンでの作成が認められており、その場合は各ページに署名押印が必要です。なお、民法改正案(2026年4月閣議決定)では押印要件が廃止される方向で検討されており、今後変更される可能性があります。
一方、公正証書遺言は公証人が作成するため、結果的にパソコンで作成された文書となりますが法的には問題ありません。
認知症であること自体を理由に直ちに遺言書が無効になるわけではありません。重要なことは、遺言書を作成した時点で意思能力があったかどうかです。
軽度の認知症であっても、内容を理解し判断できる状態であれば有効とされる可能性があります。
遺言書はただ作成すれば良いわけではなく、法的な要件を満たす必要があります。要件を満たさなければ、せっかく作成した遺言も無効になってしまうのでご注意ください。
遺言書の作成に不安がある場合には、相続・贈与に強い税理士や専門家が多数在籍する「杉並・中野相続サポートセンター」までご相談ください。
杉並・中野相続サポートセンターは西荻窪駅・徒歩1分に事務所を構え、下記エリアを中心とした地域密着の相続相談を承っています。ぜひご相談ください。
遺言書は、法定相続に優先して被相続人の意思を反映できる強力な手段ですが、その効力を発揮させるためには、方式の遵守や意思能力の確保など、法的要件を満たすことが不可欠です。
また、指定できる内容についても遺留分などの制約があり、無効となるリスクや紛争の火種を完全に排除できるわけではありません。
確実に意思を実現するためには、公正証書遺言の活用や専門家への相談も視野に入れつつ、定期的な見直しを行うことが重要です。
この記事の監修者
監修者
廣瀬 一俊