遺贈とは、遺言書などで特定の人物、団体に財産を譲ることです。遺贈は相続人以外の人物に対しても行えます。遺贈で遺産を受け取った人物は相続人同様に相続税がかかります。
また、遺贈する財産や相手によっては、登録免許税や不動産取得税、みなし譲渡所得税がかかるのでご注意ください。
本記事では、遺贈に相続税がかかるのか、計算方法や注意点について解説します。
目次
遺贈とは、遺言によって特定の個人や団体に財産を譲る行為です。遺贈は生前贈与と異なり財産をもらう側の同意は必要なく、(1)誰に(2)どの遺産を譲るかを遺言書で明確に指定すれば成立します。
また、遺贈は相続人以外の第三者を受遺者として指定することも可能です。内縁の妻や夫がいる場合、相続人以外に遺産を譲りたい場合は、遺贈を検討しても良いでしょう。
遺贈と相続は、被相続人の財産を譲る点では共通しますが、下記のような違いがあります。
遺贈 | 相続 | |
---|---|---|
遺産が誰のものとなるか | 遺言書で指定した人物 | 民法によって決められた法定相続人 |
遺言書が必要か | 必要 | 不要 |
どの遺産を譲るか指定できるか | 指定できる | 指定できない (民法によってそれぞれの相続人が受け継ぐ割合が決められている) |
上記のように、遺贈は誰に遺産を譲るかだけでなく、どの遺産を誰に譲るかまで指定可能です。
「妻に自宅の不動産を遺したい」「預貯金は長男に譲りたい」などの希望がある場合は、相続人に遺産を譲る場合でも、遺言書を作成した方が良いでしょう。
遺贈によって財産を受け取った場合、受け取った遺産は相続税の課税対象となります。ただし、相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除が用意されており、課税対象額が基礎控除を下回る場合は、相続税はかかりません。
また、相続税は累進課税制度を採用しているため、被相続人の遺産が多ければ多いほど税率が上がり、税負担が重くなる仕組みで、最高税率は55%にも達します。
次の章では、遺贈を受けた際に相続税を計算する流れを詳しく解説していきます。
遺贈を受けた場合も相続税の計算、申告が必要であり、計算の流れ自体は通常の相続と大きな違いはありません。
具体的には、下記の流れで計算をしていきます。
それぞれ詳しく解説していきます。
最初に、遺贈を含む被相続人の全財産の評価額を計算します。相続財産は預貯金や現金だけでなく、不動産や株式、金などの貴金属も含まれるので漏らさず計算するようにしましょう。
相続財産調査に不安がある場合は、相続に詳しい専門家に相談するのがおすすめです。
また、相続財産は不動産や預貯金といったプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も含まれます。被相続人が遺したマイナスの財産および葬儀費用は、債務控除を行い課税対象額から差し引くことが可能です。
債務控除を漏れなく申告すれば、結果として課税対象額が減り相続税を節税できるので、ぜひ活用しましょう。
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除が用意されています。相続財産調査が完了し遺産総額が判明したら、基礎控除を差し引き、最終的な課税対象額を計算します。
課税対象額が確定したら、相続税の総額を計算します。相続税は超過累進課税制度を採用しているため、下記の速算表を用いて相続税額を計算するのが良いでしょう。
課税対象額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | – |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税を計算する際には、法定相続分で遺産を分けたとして、それぞれの相続分に対して上記の相続税率を掛けて計算します。そして、それぞれの相続税額を合算して、相続税額を決定する仕組みです。
関連サイト国税庁「No.4155 相続税の税率」
最終的には、実際の相続分で分けたとして、先ほど計算した相続税額を分配します。例えば、法定相続人は遺産を一切受け継がず、受遺者がすべて受け継ぐ場合は、相続税もすべて受遺者が支払います。
受遺者が被相続人の配偶者や子供、両親以外の場合は、最後に受遺者の相続税額を2割加算します。被相続人の配偶者や子供、両親以外の場合は、相続税が2割加算されると決められているからです。
関連サイト国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」
したがって、孫や子供の配偶者などに遺贈した場合、税負担が重くなる可能性もあるのでご注意ください。
遺贈を受けると相続税だけでなく、不動産取得税や登録免許税がかかる場合もあります。遺贈により発生する税金は、下記の通りです。
それぞれ詳しく解説していきます。
遺贈によって不動産を取得した場合、不動産取得税が課される場合があります。不動産取得税とは名前の通り、有償・無償を問わず不動産を手に入れたときにかかる税金(地方税)です。
遺贈により不動産取得税がかかるのは、特定遺贈によって相続人以外の人が不動産を受け継いだ場合です。特定遺贈とは、どの財産を遺贈させるか明確に指定する遺贈であり「不動産Aを孫に相続させる」などと指定した場合は、特定遺贈に分類され、不動産取得税が課税されます。
同様に、死因贈与による不動産の取得の場合も不動産取得税の課税対象となります。
一方、遺贈する遺産の割合と誰に遺贈するかのみ指定する方法を包括遺贈と呼び「全財産を内縁の妻に相続させる」などが該当します。包括遺贈は、受遺者が相続人と同様の権利・義務を持つと考えられるため、不動産を遺贈で取得しても不動産取得税はかかりません。
関連サイト東京都主税局「不動産取得税」
遺贈で不動産を取得した場合、その所有権を自分名義に変更するためには登記が必要です。そして、登記申請の際に支払う税金が登録免許税です。
登録免許税は不動産取得税と異なり、不動産を遺贈・相続したすべての人にかかる税金ですが、遺贈と相続では税率が異なります。
特定遺贈の場合 | 固定資産税評価額×2% |
---|---|
包括遺贈・相続の場合 | 固定資産税評価額×0.4% |
上記のように、法定相続人以外が特定遺贈で不動産を受け継ぐと、登録免許税の税率が相続時のものより5倍になってしまうのでご注意ください。
関連サイト国税局「No.7191登録免許税の税額表」
法人などの団体に不動産などを遺贈すると、譲渡所得税・住民税がかかる場合があります。遺贈の際には、被相続人から法人へみなし譲渡が行われていると考えられるからです。
譲渡所得税・住民税は、遺贈時点で不動産や株式に含み益が発生していたときにかかります。このような含み益に課税することを「みなし譲渡課税」といい、被相続人の準確定申告で譲渡所得税の申告をする必要があります。
この譲渡所得税・住民税は本来遺贈をした側(被相続人)にかかる税金ですが、被相続人が支払い義務を負っている税金は相続人へと受け継がれることになります。
したがって、遺贈の際に発生した譲渡所得税・住民税を相続人が支払わなければならない場合もありトラブルに発展することもあるのでご注意ください。
トラブルを避けたいのであれば、相続人に税金分の遺産を遺しておくなどの対策も検討しましょう。
遺贈が行われた場合の相続税は2割加算や生命保険金の非課税枠などに注意しなければなりません。それぞれ詳しく見ていきましょう。
遺贈を受けた場合、相続税額が通常よりも増加する可能性があります。被相続人の配偶者と子供、両親以外が遺産を受け取ると、相続税が2割加算されると決められているからです。
第三者に遺贈する場合や孫、子供の配偶者など相続人以外に遺贈する場合は、相続税の負担についてもシミュレーションしておきましょう。
遺贈により法定相続人以外の人が生命保険金や死亡退職金を受け取った場合、相続税の非課税枠は適用できないのでご注意ください。
生命保険金や死亡退職金を法定相続人が受け取ると「500万円×法定相続人の数」の非課税枠を適用可能です。
一方、孫や内縁の妻、夫などが生命保険金を受け取っても、養子縁組していない限り非課税枠を適用することはできません。
遺贈とは遺言書などで指定した人物に遺産を譲ることであり、相続同様に遺贈を受け取ると相続税がかかります。
また、被相続人の配偶者や両親、子供以外が遺贈を受け取ると相続税が2割加算されるのでご注意ください。
遺贈を受け取った場合の相続税を正確に申告したい、スムーズに手続きを完了させたい場合は、相続に詳しい税理士に相談すると良いでしょう。
不動産を相続した場合の相続税申告や手続きは、相続に強い税理士や専門家が多数在籍する「杉並・中野相続サポートセンター」までご相談ください。
当サポートセンターでは開業して30年以来、2,500件を超える相続の相談をお受けしてきました。弁護士・司法書士などの専門家と協力体制を取りながら、ご相談者様の相続手続きをワンストップでサポート可能です。
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遺贈には相続同様に相続税が課税されます。また、法定相続人以外が特定遺贈で不動産を取得すると、登録免許税の負担も重くなりますし、不動産取得税もかかるのでご注意ください。
このように、遺贈する財産や相手によって税負担が大きく変わってくるので、遺贈を検討している場合は専門家に一度税金をシミュレーションしてもらうと良いでしょう。