事業承継税制は、先代経営者から後継者への自社株承継によって発生した相続税や贈与税を全額猶予もしくは免除してもらえる制度です。
事業承継に伴う税負担を大幅に下げられる一方で、事業承継税制を利用する場合には、制度適用後も継続して適用要件を守り続ける必要があります。
適用要件を守れず、制度の打ち切り事由に該当してしまうと、事業承継税制を打ち切られ猶予してもらっていた税金を利子税と合わせて、全額納税しなければなりません。
そのため事業承継税制を適用する場合には、その後も継続して制度の取消を避けながら事業を続ける必要があります。
本記事では相続に強い税理士が多数在籍する杉並・中野相続サポートセンターが事業承継税制の利用を検討中の方向けに、制度の取消事由を解説していきます。
目次
事業承継税制の適用要件は非常に数が多いので、必然的に制度活用後の取消事由も多くなってしまいます。事業承継税制の主な取消事由は以下の通りです。
実際には、本記事で紹介する内容以外にも取消事由があるので、先代経営者や後継者が自分で取消リスクに対処していくのは非常に大変です。
事業承継税制を利用するのであれば、制度に詳しい税理士などの専門家を頼ることもご検討ください。それぞれの取消事由を詳しく確認していきましょう。
事業承継税制適用後の5年間は後継者が代表者として経営を行わなければなりません。
事業承継税制は、先代経営者から後継者へ事業を引き継ぎ、経営や事業を続けていくことを前提としている制度だからです
上記のケースでは、事業承継税制の取消事由に該当してしまいます。
事業承継税制の適用後5年間は平均雇用8割維持を義務付けられています。
経営悪化等が原因で雇用の8割維持が難しくなった場合には、都道府県に雇用維持が難しい理由を一定の書類で提出しなければなりません。書類を提出しない場合、事業承継税制が取消になってしまいます。
後継者と同族関係者の議決権が50%を下回ると、事業承継税制が取消されてしまいます。後継者と同族関係者が過半数以上の議決権を保有できない場合、経営権を掌握しているといいがたいからです。
後継者が筆頭株主でなくなり、同族関係者が筆頭株主になった場合には後継者が代表者ではなくなったと考えられ、事業承継税制が取消されてしまいます。
事業承継税制適用後5年間は後継者が保有している株式を一部でも譲渡すると、納税猶予されている全ての自社株に対して相続税や贈与税が発生してしまいます。
適用後5年を過ぎた後は、株式を一部譲渡しても事業承継税制は取消される心配はありませんが、譲渡した株式に関しては納税猶予が取消されます。
事業承継税制の趣旨は中小企業の事業承継に伴う税負担を下げることです。そのため会社を解散した場合には、制度の適用が取消されてしまいます。株式会社の解散に関して注意すべき点は、役員の変更登記です。
12年間、役員の変更登記をしないでいると会社が解散したとみなされるので注意しておきましょう。
事業承継税制の適用後5年間は毎年、6年目以降は3年に1度、税務署に対して継続届出書を提出しなければなりません。
継続届出書の提出期限に間に合わないと、その時点で事業承継税制が取消されるので注意が必要です。6年目以降は継続届出書の提出頻度が3年に1度になるので、つい忘れてしまいがちになります。
経営者のみで事業承継税制の管理をするのではなく、事業承継税制を取り扱う税理士などと顧問契約を結び、書類作成や提出などの管理をしてもらうのがおすすめです。
事業承継税制は資産管理会社には適用できません。
そのため事業承継税制適用後も、会社が資産管理会社に分類されてしまうと、適用要件を満たしていないと判断され、認定を取消されてしまいます。
事業承継税制における資産管理会社の定義は以下の通りです。
特定資産とは、国債や地方債、上場株式や賃貸不動産などです。
ただし上記に当てはまる会社でも、常時使用している親族外従業員の数が5人以上などの条件を満たし、経営実態があると判定されれば事業承継税制の適用が認められます。
例えば自社で賃貸不動産を所有し、不動産経営を行っている会社などは資産管理会社に分類される可能性が高いです。
従業員の常時雇用などで経営実態があると認められた場合には、その条件をずっと維持しなければ事業承継税制が取消される恐れがあるので特に注意が必要です。
後継者が事業承継税制によって取得した自社株を議決権制限株式に変更した場合、経営者として支配能力がないと判断され、事業承継税制が取消されてしまいます。
株式総会や取締役会で重要議案を否決できる拒否権付株式(黄金株)を後継者以外が保有した場合にも、事業承継税制は取消されてしまいます。
黄金株は非常に権限が大きく、後継者以外が所有している場合、後継者が経営者として会社を支配している状態とはいえないからです。
事業承継税制を適用した会社が資本金もしくは資本準備金を減らした場合、事業承継税制は即取消になってしまいます。
経営判断として、減資は決して珍しいことではないので、特に注意が必要です。
「事業承継税制をしたら減資はできない」と経営者と後継者は認識しておく必要がありますし、事業承継税制に詳しい税理士と顧問契約を結び、常に経営判断が事業承継税制の取消に該当しないか確認してもらうと安心です。
事業承継税制は、自社株の相続もしくは贈与にかかる税金が全額猶予される制度です。
税負担が軽くなるメリットが大きい一方で、あくまでも税金の猶予であり、制度の認定が取消されると猶予されていた税金の納税義務が発生します。
事業承継税制が取消されたらどうなるか、確認していきましょう。
事業承継税制が取消されると、猶予されていた相続税もしくは贈与税の納税義務が発生します。猶予されていた税金に関しては、延滞分の利子税もかかるので、税負担がかなり重くなってしまいます。
事業承継税制を適用して5年経過後に会社の経営状態悪化により制度の認定を取消された場合には、自社株の価値と納税額を再計算し、差額は減免してもらえるようになりました。
上記のケースなどでは、減免措置を受けられるので納税負担を減らせます。
そのため経営難に苦しんだ上に事業承継税制が取消され、猶予されていた税金の納税義務も発生する事態は回避可能です。
とはいえ継続届出書の提出忘れや減資など経営者のミスによる事業承継税制の取消の場合には、減免措置を適用できないので認定取消には注意を払っておく必要があります。
事業承継税制の取消事由は、法律で決められているものであり、取消事由に該当すると無条件で制度を利用できなくなってしまいます。
そのため先代経営者や後継者は、取消に合わないように注意しながら経営を行う必要があります。事業承継税制を取消されないために、経営者ができることをまとめました。
事業承継税制の適用後5年間は従業員の雇用を8割維持する必要があります。
万が一、経営状態の悪化等で雇用の維持が難しい場合には、各都道府県に雇用の維持が難しい理由を一定の書類にまとめて提出しなければなりません。
書類を提出せず、雇用の維持ができなくなった場合には、制度の適用が取消されるのでご注意ください。
事業承継税制を適用した後は、適用後5年間は毎年、6年目以降は3年に1度、継続届出書を提出する必要があります。
継続届出書を提出期限までに税務署に提出しなかった場合、無条件で事業承継税制を適用できなくなってしまいます。
特に制度適用後6年目以降は3年に1度だけ継続届出書を提出するので、忘れてしまうケースもあるので特に注意しておきましょう。
事業承継税制の適用手続きは複雑で、制度の継続は非常に長期間にわたります。
そのため経営者個人で手続きを行うのは難しく、経営者が行うべき経営活動に集中するためにも事業承継税制に関しては専門家を頼るのが良いでしょう。
事業承継税制に詳しい税理士に相談すれば、取消事由に該当しないように注意を払ってもらえます。
事業承継税制は、自社株の承継に伴う相続税や贈与税を全額猶予もしくは免除してもらえる制度です。
税負担が軽くなるメリットが大きい制度ですが、適用要件が複雑で、制度適用後も取消事由に該当すると無条件で制度の適用が取消されてしまいます。
事業承継税制が取消されると、猶予してもらっていた税金と延滞分の利子税の納税義務が合わせて発生するので注意が必要です。
事業承継税制を確実に適用し、取消事由に該当しないようにするためには、制度に詳しい税理士に相談や依頼をするのが確実です。
杉並・中野相続サポートセンターでは、事業承継税制に関する相談を受け付けています。制度の適用や継続だけでなく、自社株以外の相続税対策も一括でサポート可能です。
事業承継税制は、自社株の相続税や贈与税の負担を下げられるメリットが大きい制度です。
その一方で税金が完全に免除されるまでは、認定取消にあわないように注意を払っておく必要があります。事業承継税制の取消事由は多岐にわたり、経営者個人が気を配り続けるのは現実的ではありません。
事業承継税制を適用し、税負担を減らすのであれば事業承継税制に詳しい税理士に相談して継続してサポートをしてもらうのがおすすめです。