自分の財産を特定の人物に遺したい場合、遺言書を作成することが一般的です。しかし、認知症などで意思能力を失った人が作成した遺言書は無効になる恐れがあるのでご注意ください。認知症になり意思能力を失うと、法的手続きや契約行為ができなくなってしまうからです。
ただし、認知症の人すべてが遺言書を作成できないわけではなく、意思能力や遺言書の内容によっては作成できる可能性もあります。
遺言書を作成する際には、作成当時の意思能力に関する記録を残しておく、専門家に相談し無効になりにくい遺言書を作成するなどの対策が必要です。
本記事では、認知症患者が書いた遺言書は有効なのか、作成時のポイントを解説します。
目次
遺言書を作成する際には、意思能力が必要となるため、重度の認知症患者が作成した遺言書は無効になる恐れがあります。
一方で、認知症の症状が軽度の場合や遺言書の内容がシンプルな場合は、遺言書が有効と判断される可能性もあります。
このように、認知症の人が作成した遺言書の有効性はケースバイケースなので、作成時には相続に詳しい専門家に相談しながら進めるのが良いでしょう。
次の章では、認知症の人が遺言書を作成する際のポイントを解説します。
認知症の人が遺言書を作成するのであれば、作成当時の意思能力に関する記録を残しておくことが大切です。
他にも、遺言書が無効であると主張されないように遺言書の内容をシンプルにしておくなども有効です。認知症患者が遺言書を作成する際に意識すべきことを見ていきましょう。
認知症の人や高齢者が遺言書を作成する際には、医師の診察を受けて遺言書作成時の意思能力に関する記録を残しておきましょう。
認知機能のレベルを測定する際には、長谷川式認知スケール(HDS-R)が使用されることが多いです。
関連サイトJ-STAGE「改訂長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R)の理解と活用」
長谷川式認知スケールを行い、30点満点中20点以下であれば認知症の疑いがあり、10点以下ではたとえ公正証書遺言であったとしても意思能力がないと判断され、無効とされる傾向にあります。
ただし、長谷川式認知スケールの点数のみで意思能力の有無が判断されるわけではありません。
仮に、長谷川式認知スケールで20点以下の結果となったとしても、他の検査結果や本人の状態、遺言書の内容によっては有効だと判断される可能性もあります。
そのためにも、遺言書を作成したいと考えたときには、事前に医師の診察や長谷川式認知スケールでの検査を受けるなどして、ご自身の意思能力を確認しておくと安心です。
すでに認知症の疑いがある人が遺言書を作成する場合は、できるだけシンプルな内容にするのがおすすめです。
遺言書の内容がシンプルであればあるほど、作成時に医師能力があったと判断されやすくなるからです。
具体的には「配偶者にすべての財産を遺す」「長男に全財産を遺す」などといった遺言書は作成時に意思能力があり有効だと判断されやすくなります。
一方で、複数の相続人に特定の財産を遺すように指定する遺言書や細かく相続割合を指定した遺言書は作成時の意思能力が疑われる可能性もあるでしょう。
遺言書の有効性を高めたいのであれば、公正証書遺言を作成するのがおすすめです。
公正証書遺言は証人2名の立会いのもとで公証人作成するため、自筆証書遺言よりも信頼性が高いとされるからです。
ただし、公正証書遺言であれば絶対に無効にならないわけではなく、作成当時の意思能力や認知症の進行度によっては無効になる恐れもあります。
遺言書を作成する際には、作成前の専門家との打ち合わせや作成日当日の記録や証拠をできるだけ残しておくと良いでしょう。
遺言書の内容に納得いかない相続人がいる場合、遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟などが行われる恐れがあるからです。
調停や訴訟に発展したときに、遺言書作成前後の記録が残っていれば、意思能力があったと判断されやすくなります。
例えば、遺言書の作成前に医師の診察を受けカルテの写しをもらっておく、遺言書の作成日に本人の言葉や意思をビデオや音声でも記録しておくなどが有効です。
遺言書を作成する際には、相続人に内容や作成理由を説明し納得してもらっておきましょう。
認知症の人が作成した遺言書の有効性が争われる場合、一部の相続人が遺言書の内容に納得していないことが原因なケースがほとんどだからです。
意思能力の有無に疑いがある人が作成した遺言書であっても、相続人が納得してればそもそもトラブルは起きず、遺言書の内容通りの遺産分割が行われる可能性もあります。
被相続人が用意していた遺言書が見つかったが、作成当時の意思能力に疑問がある、内容に納得できない場合には、遺言書の有効性について争うことも検討しましょう。
遺言書が無効だと感じたときの対処法を詳しく解説していきます。
作成当時の遺言者の意思能力が疑われるケースでは、遺言無効確認調停を行うのも良いでしょう。遺言無効確認調停では、家庭裁判所の調停委員が相続人の間に立ち、相続人間で合意できるように話し合いを進めます。
ただし、遺言無効確認調停はあくまでも話し合いであり、不成立で終わる可能性もある点には注意が必要です。不成立となった場合は、遺言無効確認訴訟に進みます。
遺言無効確認調停が不成立で終わった場合、地方裁判所にて遺言無効確認訴訟を行います。遺言無効確認訴訟では、原告と被告が主張や立証を行い、最終的に裁判官が判決を下します。
遺言無効確認訴訟まで進んだ場合、相続人や受遺者が自分で手続きや交渉を行うことは現実的ではないので、相続トラブルに詳しい弁護士に相談するのが良いでしょう。
遺言書の内容に納得いかないときには、遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟で争うだけでなく遺留分侵害額請求を行いましょう。
遺留分侵害額請求とは、遺産を多く受け取った人物に対し遺留分侵害額相当の金銭を請求する制度です。
遺留分侵害額請求を行っておけば、偏った内容の遺言書が有効だと判断されても遺留分だけは受け取れます。調停や裁判の場で自分の主張が認められなかったときの対策として行っておくのが良いでしょう。
遺留分侵害額請求と同様に、特別受益の持ち戻しも主張しておくのがおすすめです。
特別受益とは、相続人が被相続人から個別に受けていた利益であり、持ち戻しが認められれば過去に受けていた利益も合算して遺産分割が行われます。
被相続人の介護を長年にわたり行っていた、無償で事業を手伝っていたなどの事情がある場合は、遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟だけでなく、寄与分の主張もしましょう。
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に貢献した相続人が法定相続分より遺産を多く受け取れる制度です。
内容に納得できない遺言書があっても、寄与分の主張が認められれば遺言書に記載された内容より多くの遺産を受け取れる可能性があります。
遺言書を作成する際には、作成当時の意思能力に関する証拠を残しておく必要があります。
遺言書が無効になるリスクをできるだけ排除したいのであれば、遺言書の内容や作成に関するサポートを専門家に依頼するのが良いでしょう。
遺言書を作成する際には、税金や法律に関する専的な知識が必要不可欠です。また、相続財産や相続人の状況によっては、遺言書以外による相続税対策も検討した方が良いでしょう。
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