相続手続きの大事なステップのひとつに相続税を申告する前段階で行う「相続財産の把握・確定」があります。
相続税を少なくするために意図的に相続財産を申告しなかった場合などは論外ですが、たとえ悪意のない把握漏れであっても、国税庁の調査が入り、非違(誤りのこと)があった場合は、重加算税をはじめとするペナルティが課されることもあり得ます。
本記事では相続に強い税理士が多数在籍する杉並・中野相続サポートセンターが相続税に関する国税庁の実地調査の最新情報と相続財産の計算からうっかり漏らしやすい財産について分かりやすく解説していきます。
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相続税の実地調査は、資料情報等から申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案等について、国税庁が行うものです。
例年、相続税の納税があった件数のうち約10%程度の申告で誤りが指摘され、追徴課税等の処分が行われています。
令和3年度の国税庁の調査では、1件当たりの申告漏れ課税価格は 3,530 万円(対前事務年度 101.0%)となり、過去 10 年間で最高額、1件当たりの追徴税額(886 万円)も過去最高だった令和2事務年度に次いで2番目の額となりました。
追徴に先立って行われた税務調査は6317件でした。この数字は対面を要する実地調査件数で、昨今のコロナ渦の影響を受け、令和3年度においてはと以前に比べるとほぼ半減しています。
対面による実地調査がコロナ渦の影響でここ数年減少した一方、電話・文書による「簡易な接触」が増加しており、簡易な接触件数による調査は 14,730 件(対前事務年度 108.0%)となっています。
申告漏れ等の非違件数は 3,638 件(同 116.1%)、申告漏れ課税価格は 630 億円(同 112.5%)、追徴税額合計は 69 億円(同 107.2%)と、いずれも簡易な接触の調査の集計を始めた平成 28 事務年度以降で最高となっています。
令和3事務年度において申告漏れが多いといわれる財産のうち、最も多いのが「現金・預貯金等」で705億円でした。 続いて、「土地(274億円)」、「有価証券(257億円)」となっています。
また、相続財産は国内だけに限りません。国税庁の実地調査の結果、一定の要件にあてはまる海外資産も漏れが多い財産のひとつとして捉えられており、海外資産に係る申告漏れ等の非違件数は対前事務年度比119.8%と他の資産と比べても大きく増加していることが分かります。
ネット専業の銀行・証券会社はインターネット環境さえあれば手軽に取引ができることから、急速に普及が進みました。全銀協の調査でも保有口座数の割合は対面型の銀行とほぼ変わらない水準に達しているとの報告がなされています。
また、高齢者でのネット完結型口座の利用も進んでおり、国内最大手の信託銀行が実施した調査でも、70歳以上であっても半数を超える人がネット専業金融機関の口座を利用しているとのデータもあります。
こうしたネット完結型の口座は取引報告書や運用報告書などが郵送されず、取引の全てがネット上で完結されてしまうため、取引している本人が教えない限り家族が取引していることに気付かず、相続が発生した際に相続財産から漏らしてしまう可能性が高くなります。
また、一定期間利用がないとしても原則として金融機関の方から契約者に問い合わせることはないため、契約者が亡くなるとネット口座はそのまま放置されることになってしまいます。
Suicaや楽天edyなどの電子マネー、PayPayやLINE PayなどのQRコード決済サービスなども本人以外利用することが少ないため、把握漏れしやすい財産になり得ます。
取引の全てがネット上で完結されてしまうタイプの口座の中でもより注意が必要なものが、ビットコインに代表される「暗号資産」や高いレバレッジをかけた「FX外国為替証拠金)」取引です。
相続税申告後にこうした口座での取引を通じた決済が発覚した場合、損失がある口座では相続人が決済手続きを行った上で、「マイナスの財産」として修正申告を行う必要があります。
一方、取引を通じた決済がプラスになっている場合は、修正申告の結果、追加納税が必要になる可能性があります。
デジタル資産のうっかり申告漏れを防ぐ最善策相続を受ける子供側・親側ともにネット完結型取引の実態について共有しておくことです。
ネット完結型の口座は通帳・印鑑の概念がないことがほとんどで、取引に際してはID・パスワードが重要な情報になります。こうした情報を共有すると同時に、セキュリティを担保するためにIDとパスワードは別に管理を行うなどの対策を講じておくとよいでしょう。
残高が少額、または0円だからわざわざ解約するのも面倒だし、相続財産を把握する際も気にしなくていいのでは?もしそう考えているならば大きな誤りです。
たとえ残高が少額であっても相続財産であることには変わりません。もし意図的に申告を漏らしていたような場合は国税庁から非違を指摘され、かなりの高確率でペナルティが課されることになります。
銀行等の口座解約の場合、生前本人が手続きを行うのであれば、通帳と届け出印を持参すれば比較的簡単に解約できます。通帳や届け出印を紛失していた場合も、速やかに再発行・再登録もしくは解約の手配をしてもらえます。
しかし、死後に相続人が口座解約等を行う場合は、たとえ残高0円の口座であっても被相続人の戸籍謄本や相続人全員の印鑑証明書を取った上で、相続手続依頼書などの必要書類と一緒に金融機関に提出する必要があります。 また、金融機関によっては遺産分割協議書の提出を求められる場合もあります。
クレジットカードについても死後に行う場合は銀行口座同様解約と同様の労力がかかります。うっかり申告漏れを防ぐのみならず、死後の手続きのために要する時間コストと金銭コストを考えると、こうした普段使わない口座・クレジットカード類は生前に解約しておいた方がよいでしょう。
平成24年度(2012年度)税制改正により、国外財産調書制度が創設され、毎年12月31日時点で5,000万円超の海外預金口座・不動産・株式などの国外財産を保有している場合には、所轄の税務署への申告が義務付けられることとなりました。
また、個人の資産運用の国際化はさらに進んでおり、国税庁もCRS情報(共通報告基準に基づく居住者融座情報)をはじめとした租税条約等に基づく情報交換制度などを効果的に活用することが原則になっています。
その結果、令和3事務年度においては、海外資産に係る申告漏れ等の非違件数は115件(対前事務年度119.8%)、非違1件当たりの海外資産に係る申告漏れ課税価格は 4,869 万円(同 136.1%)と大きく増加しています。
国税庁は間違いなく富裕層の海外資産の把握に注力していると言えるでしょう。
海外赴任経験があり、現地の銀行口座を保有していたような方も多いのではないでしょうか。残高が少額の海外口座であっても相続財産にカウントされることに変わりはありません。
当サイトの「国際相続サポート」でも紹介しているように、相続が発生した際に、海外で開設した口座を解約するときは、国内銀行口座の解約手続きとは比べ物にならないほどの多くの労力と時間がかかります。
日本語で対応してくれる海外の銀行はまずないことに加え、それぞれの国固有の手続きが課されることが一般的です。
米国では口座をはじめとする相続人の財産に対し「プロベート(検認)」手続きが課され、裁判所の任命を受けた弁護士が代理人となり、遺言書有無の確認から相続人の特定、債務関連の処理を経たのち、海外での納税手続きに臨みます。
これら一連の手続きを経て納税まで完了するまでには1年から3年程度かかることが一般的とされています。遺された人の負担感を考えると、使わない海外口座は生前に処理しておくことが大事であることがお分かりいただけると思います。
コロナ渦の影響で、相続税に関する対面を伴う国税庁の実地調査の件数は減少した一方、簡易な接触による調査件数は増加し、調査件数全体の件数は増加しています。
また、申告漏れ等の非違件数は前年度比123.6%、実地調査1件当たりの追徴税額も886万円と大きな金額になっています。
生前にできる相続対策のひとつとして、税理士をはじめとする専門家に相談してみることで、相続財産の把握漏れはかなりの確率で防げるようになります。
また、どんな準備を行えばいいのか、どのような遺言が適切なのか、日々相談できる専門家とあらかじめ接点を持っていれば、相続が発生した際の手続きもスムーズに進めることができるようになります。
杉並・中野相続サポートセンターでも、様々な相続に関する相談をお受けしています。
当サポートセンターであれば、相続対策のご提案から遺言執行まで、各分野に精通した専門家と連携し、相続に際して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスから相続税申告まで一括サポート可能です。
相続や生前贈与・遺贈などに関する疑問やお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
初回利用者向けの無料相談会も開催しておりますので、まずは一度お気軽にお問い合わせくださいませ。本記事は2022年12月末税制に基づき執筆されています。