「みなし譲渡」とは、無償もしくは市場価格より著しく低い価額で資産を譲ることです。
特に、法人から役員への資産移転や、個人事業主の事業資産の家事用転用などは、消費税や所得税の課税対象になる可能性があるためご注意ください。また、みなし譲渡による消費税課税は相続においても発生し得ます。
本記事では、みなし譲渡とは何か、みなし譲渡に消費税がかかるケースについて、わかりやすく解説していきます。
目次
「みなし譲渡」とは、無償もしくは市場価格より著しく低い価額で資産を譲ることです。例えば、役員が保有する資産を法人に対して無償で譲渡した場合、税務上は時価で譲渡したものとみなされ、税金が課税される場合があります。
みなし譲渡は、租税回避を防止するために設けられており、法人税・所得税・消費税の各分野で規定されています。
特に、消費税においては、「事業として使用していた資産を無償または低額で譲渡した」などのケースで課税対象となるため、実務では注意しなければなりません。
みなし譲渡時に消費税が課税されるケースは、主に下記の通りです。
法人が所有する建物や車両などの事業用資産を、対価を受け取ることなく役員に譲渡した場合、それは税務上「みなし譲渡」に該当します。
この場合、法人側ではその資産の「時価」に相当する額で譲渡があったものとされ、消費税法上の「資産の譲渡等」として課税対象になります。
関連サイト国税庁「No.6117「資産の譲渡等」とは 」
なお、みなし譲渡では、簿価にかかわらず時価で譲渡が行われたものとして税金を計算する仕組みです。
例えば、簿価1円の社用車を役員に無償で譲渡した場合、時価が100万円であれば、法人にはその100万円に対する消費税が課されます。
また、法人税法上も、寄附金などとして扱われ、損金不算入になる可能性があるため、法人の税負担が増える恐れがあるのでご注意ください。
関連サイト国税庁「No.5281寄附金の範囲と損金不算入額の計算」
次に、法人が役員などに対して著しく低い価格で資産を譲渡した場合も「みなし譲渡」に該当することがあります。
「著しく低い価額」とは、時価の50%未満で譲渡した場合などが目安になりますが、税務署の判断によっては50%を超えていても否認されるので、ご注意ください。
この場合、時価と譲渡価額との差額について、時価での譲渡があったものとして消費税が課税されます。
関連サイト国税庁「No.6321 法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い」
個人事業主が、事業用に使用していたパソコンや車両などの資産を、自宅用や家族のために使用する目的で転用した場合も「みなし譲渡」に該当します。
例えば、事業用に使っていたノートパソコンを、子供の学習用として家庭内で使い始めたとき、そのパソコンの時価が残っていれば、その時価相当額に対して消費税が課税される可能性があります。
これは「事業の用に供していた資産を事業の用に供しなくなった場合」として、消費税法において譲渡とみなされるからです。
関連サイト国税庁「No.6317個人事業者の自家消費の取扱い」
さらに、個人事業主が亡くなり相続が発生した際、相続人がその資産を家事用に使用していた場合などには、税務調査の結果により「家事用転用によるみなし譲渡」と判断され、相続人に消費税の納税義務が生じる可能性もあります。
関連サイト国税庁「No.6603個人事業者が事業を廃止した場合」
みなし譲渡が消費税の課税対象になる場合、通常の資産譲渡と同様に「課税標準額×消費税率」により消費税を計算します。
ただし、みなし譲渡では「対価がない、または著しく低い取引」であるため、取引価格ではなく「時価」に基づいて計算しなければなりません。
本章では、みなし譲渡時に消費税を計算する方法を解説します。
みなし譲渡における消費税の課税標準額とは、原則として「資産の時価(=通常の販売価額)」です。例えば、法人が役員に無償で譲渡した社用車が、第三者に売却した場合100万円で売れると見込まれるなら、この100万円が課税標準額になります。
事業用資産を家事用に転用した個人事業主の場合も同様です。例えば、事業で使用していたノートパソコンを家庭用にした場合、転用時点の中古市場価値が5万円であれば、それが課税標準額となります。
なお、ここで言う「時価」は、見積書や類似資産の売買実例、市場価格など客観的資料を根拠にして算定する必要があります。恣意的に低く見積もると、税務署に否認され追徴課税のリスクが生じますので注意しましょう。
課税標準額が算定できたら、その金額に消費税率を掛けて税額を算出します。
現行の消費税率は、10%(標準税率)および8%(軽減税率)ですが、みなし譲渡の対象となるのは主に建物・車両・機械・什器などの固定資産や在庫品であり、これらには原則として10%の標準税率が適用されます。
関連サイト国税庁「No.6383課税標準額に対する消費税額の計算」
みなし譲渡は、実際に資産の対価の授受が行われていなくても、税務上は「譲渡があった」として扱われる特殊な制度です。
みなし譲渡と判断される場合には、下記などにも注意しなければなりません。
それぞれ詳しく解説していきます。
みなし譲渡の課税対象は消費税だけではなく、資産を譲渡したことにより、利益(譲渡所得)が生じたと見なされる場合には、所得税が課されることがあります。
関連サイト国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
みなし譲渡時に所得税がかかるケースは、主に下記の通りです。
また、法人から役員等への無償または低額譲渡の場合、法人側には法人税が課され、受け取った役員側には給与課税や一時所得課税が課せられる場合もあります。
みなし譲渡に関する税務上の最大のリスクは「申告漏れ」です。悪意がなかったとしても、みなし譲渡に該当することに気付かず、無申告となってしまうケースも多くあります。
しかし、税務署は個人や法人の資産の動きをある程度把握しています。税務調査において、みなし譲渡と判断された場合、消費税や所得税に加え、加算税・延滞税が科せられる恐れもあるのでご注意ください。
特に、親族間取引や役員への資産移転などは、税務署も重点的にチェックしているので細心の注意を払いましょう。
相続人が被相続人の債務状況を把握できない場合、「限定承認」という相続手続きを選ぶことがあります。
限定承認とは、相続によって得た財産の範囲内でのみ負債を引き継ぐという制度ですが、みなし譲渡による税金がかかる恐れがあるので注意しましょう。
通常、相続で遺産を取得した場合、譲渡所得税はかかりません。しかし、限定承認によって遺産を取得する場合には、被相続人から相続時点で譲渡があったものとして譲渡所得税を計算する仕組みです。
したがって、相続で得た不動産や株式が被相続人が遺産を取得したときより大幅に価値が増している場合には、譲渡所得税がかかる恐れがあります。
限定承認はあまり選択される機会がないため、みなし譲渡についても見落とされがちです。限定承認をするときには、自己判断せず、専門家に相談しながら手続きを進めていきましょう。
みなし譲渡は通常の取引と異なり、契約書が交わされないことも多く、申告が必要であっても見通されがちです。後から税務署にみなし譲渡を指摘されると、追徴課税のリスクもあります。
このような事態を避けるためにも、無償もしくは市場価値より著しく低い価額で資産を譲る際には、税理士に事前に相談しておくと安心です。
みなし譲渡の判断や税金の計算は、税理士や専門家が多数在籍する「杉並・中野相続サポートセンター」までご相談ください。
杉並・中野相続サポートセンターは西荻窪駅・徒歩1分に事務所を構え、下記エリアを中心とした地域密着の相続相談を承っています。ぜひご相談ください。
みなし譲渡は、実際の売買行為がなくても、資産の移転や用途変更によって税務上は“譲渡があった”とみなされ、消費税や所得税が課税される制度です。
主な対象は、無償または著しく低額での譲渡、あるいは事業用資産を家事用に転用するケースなどで、課税標準額は「時価」に基づいて算定されます。
さらに、限定承認による相続でも譲渡があったと見なされ、思わぬ税負担が生じることもあるのでご注意ください。こうした課税リスクを見逃すと、申告漏れや誤認による追徴課税につながるおそれがあります。
申告漏れや誤認による追徴課税を防ぐには、実態を丁寧に把握し、専門家の助言を得ながら対応することが重要です。